半島を出よ

「半島を出よ」を今さら読んだ。ベストセラーなだけあってずっと予約が入ってたけど、ようやく上下巻そろって書架にあるのを見つけて、貸出カードも空いてたので。村上龍、こう見えても昔は読んだりしてたのです。高校生くらいの頃。だいじょうぶマイフレンド、とか、料理小説集、といったソフトな内容の小説がお気に入りでした。

分量もあるし内容もすらすら読める感じじゃなくって、途中で読むの止めようかと何度か思ったけど、上巻の終わりあたりから勢いがついてきて、最後、下巻の三分の二くらいを一日で読み切った。休日の昼に読み終えて、遅めの昼ごはんをもそもそ食べて、気もちのおさまりがつかなくて缶ビールを飲んで風呂にゆっくり入った。渾身の力作。残虐な描写が多くて万人にお薦めはできないけど、これは、たしかに読むべき本であった。

場面が目の前で生き生きと動き出すような文章の表現力に何度もうならされた。細部が書き込まれているわけじゃなくて、要所を的確に押さえてあって、ストーリーが展開していくときに浮かび上がる映像が、とてもリアル。

風呂から上がって(よりによって、という気もするが)戦闘シーンを読み返してしまった。イシハラグループが力を合わせてビルを倒壊させるまでの過程には、心を動かされずにはいられない。

以前読んだある外国のファンタジーは、面白かったんだけど、主人公が何度も死にそうな目に合いながら決して死なず、大自然を舞台にした話なだけにその不自然さがより際立つように感じられて辟易した。ハリウッド的というか。それにくらべるとこの小説はよっぽど自然、というかリアリティーがあってよい。

一人の主人公がいるわけじゃなくて、複数の人物にそれぞれの視点から語らせることによって、大きな流れが見えてくるというつくりになっているんだけど、その構成力に感嘆。

自分のダメさや将来に対する不安を喉元につきつけられるようなおそろしい思いを何度も味わったけれど、最終的にはそれすらもエンターテイメントに昇華しているところがまたすごい。でもその恐怖感は忘れちゃいけないと思った。

「共有する感覚というのは静かなものなんだ、モリはそう思った。みんな一緒だと思い込むことでも、同じ行動をとることでもない。手をつなぎ合うことでもない。それは弱々しく頼りなく曖昧で今にも消えそうな光を、誰かとともに見つめることなのだ。」

胸がつまった。