月の光のゼリー

わたしを離さないで(never let me go)について、書き忘れたこと。作者について私はこの本に書かれている情報以外ほとんど知らないので、きわめて個人的な憶測に過ぎないのですが、やはり日本的な情緒がそこはかとなく感じられる気がした。そして、英文で書かれた原作が他の人の手で日本語に翻訳されていることによって、その日本的な気配に、構造的なねじれが生じているような印象を受けた。うまく説明できないんだけど、例えば、もし作者がはじめから日本語で書こうとしたら、この日本語訳とはかけ離れたものになるんじゃないか、と思ったり。そこが、かゆいところに手が届かないような感じ。あくまでも、ひとりよがりな感想で、批評ではないことを重ねてお断りします。

Bust Waste Hip

Bust Waste Hip

このところ気になるミュージシャンのブログやなんかでこのアルバムの名前や収録曲を立て続けに目にしたものだから、久しぶりに聴いてみることにした。発売になったのは高校1年のときで、そうだ、初めてブルーハーツのアルバムをCDで買った作品だった(それまではカセットだった)。クラスの席の近くでブルーハーツを聴く子が1人いて、彼女とはちょっと話をしたけれど、他にはほとんど誰とも分かち合うことなく、繰り返しアルバムを聴いては、音楽雑誌を読んでいた。ライブには一度も行かなかった。ばななさんがエッセイでブルーハーツが好きだと書いていて、本当に嬉しかった。ブルーハーツというと「リンダリンダー」とか「トレイントレイン」と歌いながら飛び跳ねるような人らとは、仲よくなれる気がしなかった。そんなわたしはみうらじゅんの「同窓会はけだものの集まり」説に深く同意する者である。話がそれた。そうやってひとり熱心に聴き続けた時期があったことは、今となっては、心の貯金みたいなものかもしれない。好きな音楽を作る人達がこのアルバムを好きだとわかって、素直に嬉しい。
このあいだ本屋でヒロトさんが表紙の雑誌をちらっと立ち読みした。インタビューで「我慢したらロックンロールじゃない」というような発言を読んで、深く感じ入った。ロック観に基づく、独自の人生哲学を貫き通す賢さに、ほれぼれする。希有な才能の持ち主だと思う。年齢を超越した容貌も、もはや妖怪じみている(いい意味で)。最後になったけど、このアルバムは、バンドとして一番うまくまわっていた頃の、脂の乗った作品ではないかと思う。中身が濃い。わたしが一番よく思い出す曲は「脳天気」。ちなみに日記タイトルは、その次の曲「夜の中を」から。