詠美さん

はじめての文学 山田詠美

はじめての文学 山田詠美

本屋でまずあとがきを読んで、やられた!と思った。衝撃。全文ではないけれど、下に引用させて頂きます。長々とすみません。

文学?何だよ、それ。もしも、きみに、そう尋ねられたら、非常事態における缶切りのようなもの、と私は答えたい。それも、ひとたび手にすれば、決して失うことなく、しかも、ひとりでいくつ手にしても重荷にならない、とてつもなく便利な缶切りだ。それによって開けられた中身は、人の数だけ、さまざまな味をもち、滋養に富み、空腹を満たす。良薬も含まれている。稀に、毒薬が混ざっていることもあるが、心配には及ばない。殺されるのは、きみではなく、きみの内にある退屈さだからだ。さあ、缶の中身を心の舌に載せてみたくはならないか?
今回は、初心者のために、扱いの簡単な缶切りを、いくつか用意してみた。え?興味がない?そんなつれないことを言わずに、どうか使ってみてくれたまえ。缶切り不要のたやすい人生ばかりでは、つまらないじゃないか。缶切りコレクターの至福は、すぐ目の前にある。

超かっこいい・・・特に「どうか使ってみてくれたまえ」というところがもう、たまりません。「えばりんぼ」な女の物書きさんてキュートだと思う。変にへりくだっているよりよっぽど(もちろん文章の上での話)。
詠美さんは新刊が出るとチェックする作家のひとりだけど、昔の作品はあまりちゃんと読んでなかったり、新刊を借りて読んでも内容をいつのまにか忘れてたりするから、こういう風にかいつまんで読み返せるのは嬉しい。

文学問答

文学問答

冒頭で、わたしが詠美さんの小説で一番、と言って良いくらい好きな「姫君」がとりあげられていたので、嬉しかった。この方たちは、小説を手書きで書く、ということをとてもフィジカルな行為としてとらえているんだなー、というところが印象に残った。手書きでもパソコンでも全く関係ない、という意見も、明らかに違う、という意見も、どちらもわかる気がする。どっちが良し悪しということでなく、人それぞれ持論ややり方があって然るべきではないか、と門外漢のわたしはぼんやり思うのです。それこそ、人の数だけ、世界はあるなーと。

無銭優雅

無銭優雅

というわけで詠美モードががぜん盛り上がってきたので、もちろん発売直後に予約して読んだけど、読み直した。未婚の中年男女が恋にうつつを抜かす、それだけといえばそれだけの話で(キャッチコピーは「恋は、中央線でしろ!」)、出来事らしい出来事は大して起こらず、唯一、最後に主人公の父が亡くなるくらい。でもなんか好き。わたしもがんばろーという気になる。恋に、ということではなく、もっと堂々と自分本意に生きていいんじゃないかと。

「一緒に死ぬんだろ?明日」
 スカートの布地に温かい息が染み込んだ。
「そして、明日になったら、また明日一緒に死ぬって思うんだろ?毎日、毎日、それを続けて、偽もんの精霊流しをながめて笑うんだろ?おれ、そういうのがいい」

わたしもそういうのがいい!